2009年03月04日

幸村誠『ヴィンランド・サガ(7)』

〈2009年感想10冊目〉
ヴィンランド・サガ 7 (7) (アフタヌーンKC)
ヴィンランド・サガ(7)
  • 発売元: 講談社
  • 価格: ¥ 600
  • 発売日: 2009/02/23

 表紙のクヌート王子が格好いいヴァイキング漫画の第7巻目。連載では激動の展開となっていますが,その萌芽はこの巻から既に見受けられます。完全に主人公はアシェラッドかクヌートの様相。トルフィンの扱いはほとんど空気に留まっています。

 クヌート王子の帰還からスヴェン王との対決,ビョルンの死,アシェラッドの過去,そしてレイフ・エリクソンの再登場までが描かれる盛り沢山の内容が詰まった巻となっています。個人的にはアシェラッドとビョルンの決闘から始まる一連の流れが大変お気に入り。普段,感情を露わにしないアシェラッドが見せたトルフィンへの苛立ちが印象的でした。王者としての意識に覚醒したクヌートも格好いい。そんな中,まるで成長が見られないのが主人公の筈のトルフィン。アシェラッドにより一敗地にまみれた姿は惨めそのものでした。前巻のトルケルとの決闘では主人公らしい活躍を見せていただけにこの落差は激しいものがあります。彼が本当の意味で目覚める為にはアシェラッドの死こそが必要なのかもしれません。父トールズの敵たるアシェラッドへの復讐心が彼の成長を阻害しているように思います。
 今巻において個人的に一番大きかったのはアシェラッドの傍らで副官的な存在だったビョルンの死です。最後は友達になりたかったと語りながら,アシェラッドの剣でヴァルハラに送られることになったビョルンのアシェラッドへの想い,そしてそのアシェラッドのビョルンへの想いが描かれる名場面に思います。ビョルンに「お前はオレのたったひとりの友達だ」と告げるアシェラッドの姿が印象的です。ただ,これはアシェラッドの本心だったのかというと話は別。このコマの直前におけるアシェラッドの表情の変化が気になります。これはやはり死に行くビョルンへの手向けの言葉であったのではないのかなと思います。ただ,ビョルンを単なる一部下として以上の存在と認識していたことは続くトルフィンと対峙した際の静かな迫力からも充分に分かります。ビョルンの言どおりに全てを拒絶するアシェラッドにあってもビョルンの存在は決して軽いものではない,友達ではないかもしれないけれども最も友達に近い位置にはいたのでしょう。ビョルンを失ったアシェラッドの今後がいささか気になるところでもあります。しかし,こうして読んでいくと,ビョルンとアシェラッドで交わされた「なら明日」「わかった。明日」という会話の重みがよく分かります。これだけの言葉で意図が伝わる関係は格好いいですね。
 故郷へ帰ろうとトルフィンを諭すレイフ・エリクソンの再登場が今後の大きな鍵となるのでしょう。ヴィンランドへの想いもトルフィンの中にはまだ残っていることも確認されました。アシェラッドへの復讐心を断ち切れるかどうかが問題となりそうです。ただ,それ以前にアシェラッドが死んでしまいそうなのが気がかりで仕方がありません。作中でもっとも好きな人物だけに彼の活躍をもっと楽しみたいところです。
 余談。ヴィリバルド神父にトンスラがあるのが芸が細かいですね。このあたりの史実に正確な描写も魅力的です。
posted by 森山 樹 at 21:32| Comment(5) | TrackBack(1) | 感想
この記事へのコメント
たしか史実(ソルフィン・カールセフニ・トールズソンで検索)では、将来トルフィンはレイフ・エリクソンについてヴィンランドを目指すことになりそうです。

まぁ、漫画が史実道理に行くか分かりませんが。
Posted by とんとん at 2009年08月02日 18:02
>とんとんさん
どこまで史実通りに行くかは楽しみですよね。
ヴィンランドを題名に冠している以上,いつかはヴィンランドへと旅立って欲しいものです。
Posted by 森山 at 2009年08月03日 07:18
トルフィンはクヌートに何かを「吸い取られた」ような気がしてなりません。8巻でのトルフィンの豹変っぷり、魂が抜けたようなたたずまいはクヌートとは対照的に描かれ、主人公という立場も奪われてしまったように思えます。トルフィンがこれをひっくり返せるのかが楽しみです。
Posted by karakuri at 2010年02月11日 17:09
>karakuriさん
トルフィンもクヌートもともにアシェラッドの教え子的立ち位置ですよね。
分かたれた二人の運命の軌跡が再び交差するのか楽しみです。
Posted by 森山 at 2010年02月11日 22:35
ですよね。今はもうそこに向かって話しが進んでいくことが楽しみでしかたがないです。
Posted by karakuri at 2010年02月12日 12:16
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Excerpt: 『ヴィンランド・サガ・7』幸村誠講談社アフタヌーンKC2009.2.23/第1刷/¥571(税別)『 ・・・ああビョルン お前はオレの たったひとりの友達だ 』<ご紹介>『アフタヌーン』に掲載された4..
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