2013年03月19日

高尾じんぐ『くーねるまるた(1)』

〈2013年漫画感想2冊目〉

 週刊ビッグコミックスピリッツで連載中の作品です。ふと目に留まって読み始めたのですが,これが大当たり。こういうことがあるから漫画雑誌を読むのは止められません。好きな作家の単行本だけを購入していると新しい出逢いはなかなか訪れないですからね。今後も積極的に様々な漫画雑誌を手に取ろうと思っています。まあ,あまり手を広げすぎると財政的に自分の首を絞めることにもなりかねませんけれど。

 ポルトガルからやってきた食いしんぼう少女マルタの日常を描いた漫画。特段,物語性があるわけでもないのですが,マルタの日常を眺めているだけで素直に楽しめる,そんな作品です。とにかくマルタを始めとした登場人物の魅力が実に自分好み。まだ,この巻での登場はないけれど,美術大学を目指す女医の神永さんが一番好きかなあ。勿論,マルタは別格ですけれども。貧乏生活の中で創意工夫をもって美味しいものを食べることに尽力するマルタの姿が微笑ましいのです。ポルトガル出身ということでの異文化体験という側面も素直に楽しい。こういう生活を送ることが出来たら幸せなのでしょうね。その意味では仕事に追われて,精神的な余裕に欠ける自分にとっては憧れであり,一服の清涼剤としての役割も担っています。とにかく,美味しいものを食べている時のマルタの豊かな表情が可愛いのです。茶目っ気に溢れた性格もいいよね。また,日本文学からの引用が多々あるのも個人的にはかなり嬉しい。特に自分が知っている児童文学に触れられるとそれだけで頬が綻ぶものを感じます。因みにマルタ自身が日本にやってきた理由は都市工学の研究の為に東京の大学院への留学。その割にはあまり都市工学的な内容はそれ程見受けられないかなあ。まああんまり専門的な内容をされても困るのですけれど。現在は特段定職に就いている様子もなく,御近所さんのお手伝いをしながら,気儘に貧乏生活を楽しんでいるようです。貧乏とは言ってもそれが故に卑屈になることもなく,かえって前向きに創意工夫を試みるのが大変素敵。蟹のディップを再現する為にザリガニ釣りをするなど逞しいところも見せてくれます。この時にリンドグレーンの〈やかまし村〉を思い出しているのが大変にお気に入り。美味しそうに料理を食べる娘さんというのはそれだけで魅力的なものですが,特にマルタの笑顔には本当に心惹かれてしまいます。周りを幸せにする笑顔というのはなかなか得難いものです。ここまで自分好みに魅力的な娘さんというのも久しぶりな気がしますね。実に楽しいです。

 上述のように基本的にはマルタの日常が描かれる作品ではありますが,その日常が実に充実していて興味深い。此処まで日常を楽しめるというのはやはりある種の才能ではあるのでしょう。今巻に収録されている14篇のお話の中では第3話の「豚と紅茶」が一番のお気に入りかな。チャーシューメン食べたさに自作の豚の紅茶煮をラーメン屋さんに持ち込むマルタが素敵。この豚の紅茶煮を始め,作中でマルタが作る料理は簡単なレシピが添えられています。それ程難しいものはないので気軽に料理を楽しめそう。第8話「チーユ」でマルタが作っていた鶏油の鶏皮入り炒飯は特に美味しそうでした。因みにこの鶏油は幸田文の著作にも載っているそうです。幸田文は読んだことないのだけれどね。こうして思わぬところで興味を刺激するのも本作の良いところだと思います。また,第5話「ラベンダー」はいつもと趣向を変えて料理ではなく,寝苦しい夏の夜を乗り切る為のラベンダーのハンカチの紹介。これは梨木香歩『西の魔女が死んだ』からの発案ですね。マルタはお酒も結構嗜むので,アルコール絡みのお話が多いのも楽しい。第13話「湯上り」で銭湯上がりに友達の美緒子ちゃんと缶ビールで乾杯する姿が可愛い。尤も,その酒好きが祟ったのか,第14話「ソッパ!」では二日酔いに似た症状に苦しめられていましたけれど。カップ麺を日本酒で作るという発想は流石になかったなあ。確かに身体は温まりそうですが。このお話でマルタが作っていたポルトガル風の卵スープごはん「ソッパ・アレンテージャーナ」が実に美味しそう。記念すべき第1話「バカリャウ」に登場したバカリャウのコロッケもそうですが,ポルトガル料理にも思わず心惹かれてしまいます。因みにバカリャウとは鱈の干物のこと。日本の干物とは異なるのかなあ。いつか食べてみたいものです。

 何の気なしに読み始めた作品ですが,ここまではまるとは思いもしませんでした。とにかく異国での日常を心から楽しむマルタの姿が愛おしくてなりません。連載の方では登場人物も増えて更に楽しくなっています。作中で登場した料理も機を見て再現してみたいと思います。これまで特段印象のなかったポルトガルという国ですが,いつかは実際に行ってみたくなってしまいました。ラテン系のノリは個人的にはいろいろと厳しそうだけどね。日常生活を前向きに楽しく過ごすことの素晴らしさを体感させてくれる素敵な作品だと思います。最早,ビッグコミックスピリッツ誌を読む最大の目的にもなりつつありますね。今後ともこのまま明るく可愛く楽しませて欲しいと思います。
タグ:高尾じんぐ
posted by 森山 樹 at 09:39| Comment(3) | TrackBack(0) | 感想
この記事へのコメント
はじめまして。
私もスピリッツでこの作品を知って、大好きになった読者の一人です。
くーねるまるた、本当に良い作品ですね。
明るくて元気なマルタさんの笑顔が本当に微笑ましくて、人生の一服の清涼剤と言っても言い過ぎではないくらいに読後感が良い作品だなあと思います。
ブログを拝読しながら、「そうそう!」と思わずうなずいてしまいました。
バカリャウのコロッケ、マルタさんがあまりにおいしそうに食べるので、近い内に絶対に作ろうと決意しております(笑)
Posted by ちーず at 2013年03月19日 16:00
>ちーずさん
こういうのんびりした漫画はいいですねー。
マルタさんも周囲の方々もみんな素敵です。
彼女たちみたいに生活を楽しみたいものです。
バカリャウコロッケはポルトガル料理屋さんにあったので,
今度食べてみようと思います。
自分で作るだけの料理技能はありませんので……。
Posted by 森山 at 2013年03月26日 07:05
>バカリャウ
日本の棒ダラと硬さこそ違いますが味はほぼ同じです
Posted by 泥酔 at 2013年10月26日 16:45
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